11月20日から29日まで、上野の東京芸術大学陳列館と旧平櫛田中邸で開催されている、第10回「アトリエの末裔あるいは未来」という展覧会を見てきました。
東京芸大の彫刻科木彫研究室の人たちの作品の展覧会で、陳列館の1階と2階にはこれまでに出品した人たちの作品が、旧平櫛田中邸には現在、木彫研究室に所属している人たちの作品が展示されています。
「医療と造形」の塑像実習で指導を受けた舘山拓人さんと藤原彩人さん(先生と呼ばなければいけないかしら)の作品も出展されているのです。陳列館の1階に藤原さん、2階に舘山さんの作品がありました。
藤原さんの作品は「家」というタイトルで、白く塗られた巣箱が6個、互い違いに積み上げられた形をしていて、その一番上に泥の巣(たぶん)があってツバメがちょこんと止まっています。泥の巣も白く塗られていて、ツバメだけがツバメらしく彩色されています。巣箱の入り口のある面とは反対の、裏に回ると裏側の板には上から下まで地球の大陸の形が切り抜いてあります。
ツバメは、下に6個積み上げた、いわゆる巣箱(切妻の屋根を持ち正面に丸い入り口の穴のあいた)を利用しませんし、巣箱に世界地図が切り抜いてあるのも気になります。
先日、頼まれ原稿で丸善から出る「環境年表平成27・28年版」の中に「渡り鳥」という項目を書いたのですが、その中に近年の渡り鳥の減少の例として夏鳥のツバメが1990年代後半あたりから減っていることを示すグラフを作成して載せたばかりなので、とりわけ意味深です。タイトルも「家」だし。
作品の周りを回りながら、いろいろと考えさせられました。しかもいつもの藤原さんの陶器による人物立像とはずいぶんと違います。うーん、哲学的。
舘山さんの作品は、「そんな時の空気感」というタイトルですが、英語のタイトルはメモしてこなかったので覚えていないのですが、eachという語が入ってちょっと違ったニュアンスのものだったように記憶しています。女性の頭部の木彫で、髪の毛が豊かで清楚な顔つきをしています。静謐感というか柔和さというか、ほんのりとほほ笑んでいる感じがしました。
今年の作品だそうで、去年の6月にギャラリーせいほうで見た作品からはたしかに「旅立っている」ような感じでした。「背後にあるもの」から少し経った頃からの一連の作品は、不安感というかいらだちというか、何か心を掻き立てるようなものを感じていましたが、今回の「空気感」は、それとは違ったものを感じました。写真を撮ろうとしたのですが、だめといわれたので(しかも会場を見渡せるところで女性が見ているので)撮れませんでした。気になる方はぜひ直接、見てください。ちなみに昨年の作品の一部は小生のFacebokに載っています。
陳列館の中の作品には、気になるものもたくさんありました。ただパンフレットには作者名があるのですが、作品名がないので、どれが誰の作品か、覚えていません。
ちょっと気になったのは、鏡獅子の隈取をした人物立像で、確かタイトルは「夜の獅子」だったと思うのですが、明らかに平櫛田中先生の鏡獅子の練習をする六代目菊五郎の「試作裸形」のパロディーで、手にはろうそくと縄を持っていて紫色の網タイツを穿いています。パロディーというよりはオマージュなのでしょうか。
もう一つだけ、少女は背後の花の色を知らないといったタイトルの、小さな女の子が足を抱えて座っている像で、背中からはピンク色のケシの花の花柄が伸びてその先に花が開いているものです。これも意味深。
それはともかく、陳列館内は、何よりも木彫の木の香りが漂っていて、心地よいものでした。
陳列館を出て少し歩いたところにある旧平櫛田中邸に行き、邸内のアトリエや生活空間に飾られた作品群を見て回りました。それぞれの作品が邸内の空間に収まっていて、陳列館にただ並んでいるものとは、また違った世界を作り出しています。ここでは「DOC」がちょっと気になりました。
ただ田中邸の作品を見るには、狭い階段を上がり降りしなければならないので、たくさんの人が訪れたら、、。そんなことは余計な心配ですね。尋ねてみてください。
全部見終わって、上の駅に戻る途中、広場で振り返ると噴水が上がり、その向こうに博物館の建物が遠望できました。秋の日の夕方でした。