ペットに買われている動物を除いて、ヒトの身近にいるヒト(つまり同種の動物)以外の動物は、ムシとトリでしょう。トリでいえば、どんな都会に住んでいても、スズメの声を聴かない、あるいはカラスの黒い影を見ないという人はいないと思います。そのためだと思うのですが、スズメとカラスがタイトルに入っている本が結構あります。最近では『カラスの教科書』(松原 始、雷鳥社、2012年)や『世界一賢い鳥、カラスの科学』(ジョン・マズーラ、トニー・エンジェル、東郷えりか訳、川出書房新社、2013年)というタイトルが思いつきます。スズメでは、『スズメ-つかず・はなれず・二千年』(三上 修、岩波科学ライブラリー、2013年)、同じ著者による『スズメの謎』(誠文堂新光社、2012年)があります。他にもあるのですが割愛します。
だから今さら、「鳥ってなんだ」と言われると、「そんなの知ってらー」と言われそうです。鳥と言えば、翼があって、空を飛び、美しい羽装で見るものを魅了し、あるいは華麗なさえずりで耳を楽しませてくれる存在で、そんな当たり前のことを、いまさら「なんだとはなんだ」と言われそうです。
けれども、鳥が身近な存在過ぎるので、鳥が他の脊椎動物とどんなに違うかということをあまり考えないのではないでしょうか。脊椎動物というのは、背骨(生物用語では脊椎骨という)が背中側に一本、通っている動物で、魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類が含まれる動物群です(このように生物をグループにまとめてその類縁関係を調べる学問を、分類学、系統学といいますが、詳しくはあとで話すことにするので、ここでは「そうなんだ」と納得してくださいね)。鳥についてもっとよく知るために、まずは鳥が他の脊椎動物とどれほど違うか、あるいは同じなのかということをちゃんとおさえておくことが必要です。まずは鳥と他の脊椎動物の違いをちょっと考えてみましょう。
(a)鳥類と他の脊椎動物の違い
羽毛
鳥の体表を覆っている羽毛は、現在地球上に生存している種では鳥にしかありません。魚類の体表は表皮に包まれた鱗で覆われ、両生類の体表は粘液腺に富んだ薄い表皮で覆われ、爬虫類の体表は魚の鱗とは起源が異なる角鱗と呼ばれる鱗で覆われ、哺乳類の体表は毛で覆われています。けれども、いずれも鳥の羽毛とは形態が全く異なっていて、羽毛はまさに、鳥を鳥たらしめている最大の特徴です。
くちばし
これもカモノハシというわずかな例外を除いて、鳥に特有な構造です(一部のカメでも口の部分をくちばしと呼ぶことがありますが)。われわれヒトの顎の骨に相当する構造はなく、しかも歯がありません。鳥では前肢が翼となっていて我々のように手として使うことはできないので、採餌、巣作り、羽づくろいなど、鳥はくちばしを手のかわりに巧みに使います。くちばしが食性によってさまざまな形に適応しているのはよくごぞんじのとおりでしょう。
骨
鳥の骨は中空で軽くできています。さらにいくつかの部分で癒合したり、退化したりしています。たとえば、骨盤(腰帯)は完全に癒合して1個のかたまりとなり、そこから前方に伸びる脊椎骨も癒合が進んでいます。
ちょっとみぞおちに手を当ててみてください。みぞおちから上に手を動かすと、胸骨の下端に触れることができます。正中にそってそのまま手を上に動かしていくと、のぼとけの少し下まで伸びている胸骨をたどることができます。われわれ哺乳類では、脊椎骨から伸びた肋骨の腹側端(ヒトでは前面の端)は、胸骨と関節を形成して胸腔と呼ぶ肺を収めている空間をつくっています。鳥でも胸骨に肋骨が関節しているのは同じなのですが、胸骨の下面中央には竜骨突起と呼ぶ突出した骨が発達していて、他の脊椎動物には見られないほど大きくなっています。いわゆる鳩胸ですね。この竜骨突起が、後で述べる飛翔のために発達した筋肉の付着点となっています。
これらの骨(つまり骨盤、脊椎骨、胸骨、肋骨が、全体として貨物飛行機の胴体と同じように中空のがっちりとした構造を作り、飛翔の時の重心の安定に寄与しています。
今度はちょっと肩を触ってみてください。肩の筋肉に触れることができると思います。この筋肉から下へ手を滑らせて行くと凹みがあり、太い骨に触れることができます。この太い骨が鎖骨(clavicle)です。鎖骨にそって左右に手を動かすと、中心で胸骨とつながり側方で上腕骨と肩甲骨につながります(外側から触っているだけなので実際につながっているかはわかりませんが、そのような気がすると思います)。このように、我々は左右一対の鎖骨を持っています。もちろん他の哺乳類もみんな一対の鎖骨を持っていて、両生類も爬虫類も一対です。ところが鳥類では、鎖骨は胸骨から完全に離れ、左右が中央で癒合して前から見るとV字状になっていて、これを叉骨(furcula)と呼んでいます。叉骨は肩甲骨(scapulae)、烏口骨(coracoid)とともに triosseal canalと呼ぶ穴を形成し、この穴を通って胸側にある烏口上筋(supracoracoideus、pectoralis minor)の腱が上腕骨(humerus)の上側に停止し、翼を持ち上げる働きをします。ちなみに大胸筋(pectoralis major)は上腕骨の下側に停止して翼を打ち下ろす働きをします。叉骨は胸腔の前端の支柱として、飛翔の際の翼の上げ下ろしに際してバネのように動いて、飛翔に重要な役割を果たしています。したがって叉骨のあるなしが、空を飛ぶ鳥であるかどうかの重要な分かれ道になっています(最近の研究では恐竜にもあったことがわかっています)。
次の動画「A Portrayal of Biomechanics in Avian Flight」はKelly Kageさんの作成した動画です。英語のナレーションが入っていますがとてもわかりやすく、上に述べたことを理解する参考になります。
An animation summarizing the thesis work of Kelly Kage, Medical Illustrator. All Images Copyright © 2013, Kelly Kage
この項続く、しばし待て。
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